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SYNOPSIS

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松山バレエ団総監督:清水 哲太郎

はじめに

人は誰しもそれぞれ天命を担っている、と云う考え方があります。その天命を接点として世界に向って働きかけることが、世界という一つの視点から見たときの人の生きざまである、とする考えです。
この物語の中心を成す二人、ジークフリードとオデットとは、或いは諸国を統べんとする皇帝であったり、或いは朋輩を暗黒から護らんとする公女であったり、いずれも人並みに非ざるかたちで世界と関わる人物です。
しかし彼らはけして超人ではなく、ましてや神でもありません。二人は不完全な存在としての人間の,まさにその人間らしさを一心に背負って出会い、愛をしり、そして湖の底で生き絶えます。愛するものたちのために身を捧げることは、それまで辿ってきた自分の道しるべ…天命…に決別を告げることではなく、道しるべの途切れた先に光を見出しそれへと飛び込むことかもしれません。
己の腹の底から突き上げる愛と言う情動に忠実たるために身を捨てる生き様を過去のものとは考えません。故に79年版演出を歴史とはしません。しかしこの「白鳥の湖」にはまた異なる生き様が根付いています。
ACT1-1=皇太子の間
宮廷礼拝堂へと続く「皇太子の間」で、皇太子ジークフリートはヴォルフガンク公爵夫妻や近衛隊長ベンノらを従えて女王マリアの退位式に備えている。式を執り行う枢機卿グレゴリウスを先頭に聖職者の一行が到着し、一同は畏敬の念を表す。そこへ、貴人に扮した魔王ロットバルトが現れてジークフリートに慇懃なる挨拶をなすが、実は皇太子を陥れて王国を乗っ取ることを企んでいる。そうとは知らずに、一同は女王マリアを迎えてその政道の素晴らしさに感謝の念を表し、深く頭を下げる。ジークフリートは丁重に接吻をして、これから始まる退位式に対する己の覚悟を述べる。マリアとジークフリートの2人が巨大なマントを身につけると、一行は礼拝堂に入っていく。
ACT1-2=宮廷中庭「薔薇庭園」
庭園に残された貴族たちも、女王マリアのこれまでの治世の立派さを讃え、明日に迫ったジークフリートの戴冠を喜ぶ。この王国の宮廷に代々伝わる「薔薇の舞踏会」が昔ながらのしきたりに従って開かれると彼らは踊り始め、宴はたけなわとなる。
ACT1-3=皇太子の間
退位式を終えて今や皇大后となったマリアの一行が礼拝堂から出てくる。踊り終えた貴族達が、庭園の薔薇の織り込まれたタペストリーを皇太后に捧げ、とどこおりなく退位式を終えたことを祝う。一同は明るい喜びに包まれるが、そこに再び魔王ロットバルトが現れてマリアの偉業を殊更に讃える。ヴォルフガンクが歩み出てその場は何事もなく収められる。マリアはジークフリートに向かって「立派に明日の戴冠式を終えて、新皇帝としての良き第一歩を踏み出してほしい、ゆくゆくは父君フリードリッヒにも並ぶような皇帝になってほしい」と語る一方、「拝謁する列国の使節団の中にはその国の王女も含まれているのだから、心して式に臨みなさい」と言って、場のこの業冠式を妃選びのよい機会にしたいことを仄めかす。
ACT1-4=薔薇庭園
マリアとジークフリートとを讃える歓声の中、ベンノが5人の貴族達に交わってパ・ド・シス(6人の踊り)を踊る。踊りが終わると魔王ロットバルトがまたもや現れ、

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